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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)176号 判決 1992年10月27日

アメリカ合衆国

フロリダ州三三〇一四-九三〇八、

マイアミ・レークス、ノースウエスト・シックスティース・アベニュー一四六〇〇

原告

アルシン・シーディー・メディカル・インコーポレーテッド

右代表者

リチャード・ジー・ウォーターマン

右訴訟代理人弁護士

大場正成

尾﨑英男

同弁理士

戸水辰男

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官

麻生渡

右指定代理人

産形和央

田中靖紘

加藤公清

田辺秀三

主文

特許庁が平成一年審判第三五三三号事件について

平成二年三月一日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

主文と同旨の判決

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「改良半透孔セルロース繊維およびその製法」(昭和六三年一〇月五日付け手続補正書で「半透過性中空セルロース繊維の製造方法」と訂正)とする発明について、一九七九年一二月一七日付け米国特許出願第一〇四二〇七号に基づく優先権を主張して、昭和五五年一一月二七日、特許出願をしたところ、昭和六三年一一月四日、拒絶査定を受けたので、平成元年三月六日、審判を請求した。特許庁は右請求を同年審判第三五三三号事件として審理した結果、平成二年三月一日、右請求は成り立たない、とする審決をした。

二  本願発明の要旨

「限外濾過係数KUFRが2~200ml\hr・m2・mmHg及び尿素係数がKUREA15×10-3~45×10-3cm\分であることを特徴とする半透過性中空繊維の製造方法であって、(a)三六重量%以上五〇重量%未満のセルロースエステルと、平均分子量が一〇六~九〇〇である少なくとも一つのポリオール、残りの重量%とから実質的に成る溶融紡糸組成物を溶融紡糸してセルロースエステル中空繊維を作ること、(b)前記セルロースエステル繊維を、グリセロールを含まないアルカリ性水溶液で加水分解して、湿潤固有引張強度がセルロースポリマー一グラムあたり2×104ないし11×104gであるセルロース中空繊維にすること、(c)前記繊維が湿潤されている間に水溶性で、実質的に不揮発性の可塑剤で前記セルロース繊維を再可塑化すること、および(d)前記可塑化繊維を乾燥すること、から成る半透過性中空セルロース繊維の製造方法。」

三  審決の理由の要点

1  本願発明の要旨

前項記載のとおりである。

2  引用例

(一) 引用例一(特開昭五〇-一一二五一二号公報)には、セルロースエステルと分子量三〇〇以上の水溶性多価アルコールとを混合した組成物を溶融紡糸して中空糸とし、ついでこの中空糸を分子量二〇〇以下の水溶性多価アルコールを含有するアルカリ性水溶液でケン化して再生セルロース中空糸を製造する方法に関する記載があり、ここでは、セルロースエステルとして三酢酸セルロースあるいは二酢酸セルロースが具体的に使用されること、また、分子量三〇〇以上の水溶性多価アルコールとして重合度七以上のポリエチレングリコール、重合度五以上のポリプロピレングリコール、あるいは両者の共重合体などが使用され、セルロースエステルに対する添加使用量は二〇~八〇重量%、最適範囲は三〇~六〇重量%であること、さらに分子量二〇〇以下の多価アルコールとしてエチレングリコール、プロピレングリコールなどの二価アルコールやグリセリンなどの三価アルコールが挙げられることなどが記載されている。

(二) 引用例二(特開昭五二-一四四四一六号公報)には、ポリエチレングリコールを添加したセルロースジアセテートのようなセルロースアセテートの中空糸をケン化、再生したセルロース中空糸を人工腎臓用透析装置として実用に供する際には、再生した中空糸をグリセリン水溶液で処理して乾燥することが必要である旨の記載がある。

3  本願発明と引用発明一との対比

<1> 本願でセルロースエステルに混合するポリオールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを対象とし、一方、引用発明一でのセルロースエステルに混合する多価アルコールもポリエチレン・ポリプロピレングリコールなどを対象とするから、両者はポリオールあるいは多価アルコールと表現の差異はあるが、全く同じものを対象として使用するものであり、分子量も本願では一〇六~九〇〇、引用発明一では三〇〇以上の分子量のものを使用するのであるから、両者は三〇〇~九〇〇の分子量の範囲で共通している。

<2> セルロースエステルとポリオールとの混合割合も、セルロースエステルの割合が本願では三六~五〇未満重量%、引用発明一では二〇~八〇重量%であるから、両者はセルロースエステルが三六~五〇未満重量%、ポリオールが残部である組成を有する点で一致する。

<3> セルロースエステル中空繊維をアルカリ性水溶液で加水分解して再生セルロース中空繊維とする工程で使用するアルカリ性水溶液として、本願ではグリセリンを含まないアルカリ性水溶液を使用するものであるが、この趣旨は、グリセリンを含まなければ、その他のいかなる化合物を含んでもよいことを意味するところ、引用発明一ではグリセリンばかりではなくエチレングリコールなど広範囲の多価アルコールを含有するアルカリ性水溶液を対象としているから、本願でのグリセリンを含まないアルカリ性水溶液に、引用発明一でのグリセリンのみを除外した多価アルコールを含むアルカリ性水溶液が包含されることになる。そうすると、この加水分解する工程で使用するアルカリ性水溶液も両者は同じものを使用することになる。

そこで、本願発明では、三六重量%以上五〇未満重量%以下のセルロースエステルと、平均分子量が一〇六~九〇〇であるポリオール、残り重量%とから実質的になる溶融紡糸組成物を溶融紡糸してセルロースエステル中空繊維を製造し、さらにこの中空繊維をグリセリンを含まないアルカリ性水溶液で加水分解してセルロース中空繊維を得るまでの方法は、引用例一に記載された方法そのものである。

<4> 本願方法は、得られたセルロース中空繊維をさらに水溶性で実質的に不揮発性の可塑剤で再可塑化し、乾燥する工程が付加されており、この点が引用例一には記載されていない。

<5> 右の付加されている工程で使用する実質的に不揮発性の可塑剤は、エチレングリコールやグリセリンなどを意味し、実施例では約一〇%のグリセリン水溶液を使用している。そして、このグリセリン水溶液でセルロース中空繊維を処理し、次いで乾燥している。

そして、セルロース中空繊維を透析用中空繊維として実際に使用する場合には、アルカリ性水溶液で加水分解したセルロース中空繊維をそのまま乾燥して透析に使用するのではなく、加水分解したセルロース中空繊維をグリセリン水溶液で処理し、次いで乾燥しなければならないことは、引用例二に記載されているように広く知られている。

<6> したがって、本願方法は、引用発明一の方法に、前記<5>の周知の工程を付加したにすぎないから、引用発明一に記載された方法と同じである。

<7> 本願発明では、最終目的として得られる半透過性中空繊維は、特定の限外濾過係数と尿素係数を有すること、また、工程の中間段階で得られるセルロース中空繊維は、特定の湿潤固有引張強度を有するものであることが記載されている。

<8> 本願発明は、中空繊維の製造方法に関するものであるから、製造方法としてこれらの数値を有する中空繊維を製造するための特有の手段が特許請求の範囲にも発明の詳細な説明の項にも明確に記載されていることが必要である。しかし、本願明細書をみてもこの特有の手段は何ら開示されておらず、引用例一で開示された程度の製造手段しか記載されていない。そうすると、製造されるものが、引用発明一とは相違するといっても、製造方法の発明として、同引用例で示された製造方法と、製造工程で操作上明確な区別ができる条件とか、工程上明らかな差違があってはじめてこのようなことがいえるのであるから、このような差違が明確に記載されていない以上、本願方法は引用発明一の方法と製造方法自体としてみた場合にまったく区別することができない(<1>ないし<8>の番号は、当裁判所が便宜付したものである。)。

4  以上のとおり、本願発明は、引用例一に記載された発明と区別することができないから、特許法二九条一項三号により特許を受けることができない。

四  審決の取消事由

審決の理由の要点1は認める。同2のうち、(一)のセルロースエステルに対する添加使用量を二〇~八〇重量%、最適範囲は三〇~六〇重量%であると記載されているとする点は否認するが、その余は認める。同3のうち、<1>、<4>、<5>、<7>は認める。同<2>のうち、引用発明一におけるセルロースエステルの混合割合が二〇~八〇重量%であるとの点及び本願発明と引用発明一がセルロースエステルが三六~五〇未満重量%、ポリオールが残部である組成を有する点で一致するとする点は争うが、その余は認める。同<3>のうち、セルロースエステル中空繊維をアルカリ性水溶液で加水分解して再生セルロース中空繊維とする工程で使用するアルカリ性水溶液が、本願ではグリセリンを含まないアルカリ性水溶液を使用するものであることは認めるが、その余は争う。同<6>のうち、本願発明が<5>の周知の工程を含むことは認めるが、その余は争う。同<8>のうち、第一段は認めるが、その余は争う。審決は、引用発明一におけるセルロースエステルの混合割合及びセルロースエステル中空繊維をアルカリ性水溶液で加水分解して再生セルロース中空繊維とする工程で使用するアルカリ性水溶液に関する認定を誤り、両発明を同一としたものであるから、違法であり、取消しを免れない。

1  引用発明一におけるセルロースエステルとポリオールとの混合割合の誤認(取消事由(1))

審決は、引用発明一におけるセルロースエステルとポリオール(「多価アルコール」と同義であり、以下「多価アルコール」ともいう。)との混合割合について、セルロースエステルの割合は二〇~八〇重量%であると認定し、右混合割合は本願発明における三六重量%以上五〇重量%未満の混合割合の限度で同一であると判断しているところである。

しかし、以下に述べるように、引用発明一におけるセルロースエステルの混合割合は、五五・六重量%ないし八三・三重量%、好ましくは六二・五重量%ないし七七・〇重量%であるから、審決の右認定は誤っている。

(一) 引用例一には、セルロースエステルとポリオールの混合割合について、「(多価アルコールの)添加量はセルローズエステルに対し二〇~八〇%の範囲」(二頁右上欄二行ないし四行)と記載されているところ、右記載は、その文言自体から明らかなように、セルロースエステルの量を基準としてその二〇~八〇%が多価アルコールの添加量であることを示していることは明らかである。

また、同引用例には、「セルローズエステルとして三酢酸セルローズ又は二酢酸セルローズフレークスに分子量三〇〇以上の水溶性多価アルコールを二〇~八〇%添加してブレンダーで混合し、・・・」

(三頁左上欄一八行ないし右上欄二行)との記載があり、右記載部分から混合割合に関連する箇所を抽出すると、「セルローズエステルに多価アルコールを二〇~八〇%添加して混合」との表現となるところ、「セルローズエステルに」との部分は多価アルコールの添加対象を示しているが、「多価アルコールを二〇~八〇%添加して混合」との表現からすると、右記載は、「セルローズエステルに多価アルコールをその二〇~八〇%添加して混合」と解することができるから、前記箇所と同一の意味を有するものと解することができる。なお、仮に、右記載部分の表現に不明瞭な点があるとしても、この部分は前記記載箇所と同一の意味を有すべき箇所であるから、右のように解するのが相当である。

さらに、引用例一の実施例に関する記載をみると、「三酢酸セルローズ(セルローズエステル)に対し、ポリエチレングライコール(多価アルコール、ポリオール)を五〇%添加」と記載されており、ここでの「対し」は添加の割合の基準を示す意味と添加の対象を示す意味の両方が含まれているものと解される。

したがって、引用例一の前記各記載からみると、引用発明一における多価アルコールの混合割合はセルロースエステルの量を基準として、その二〇~八〇%と解するの相当であるから、結局、セルロースエステルの混合割合は、前記のとおり五五・六重量%ないし八三.三重量%である。

(二) 本願発明の特徴は、<1>溶融紡糸工程において溶融紡糸組成中のセルロースエステルの割合が少ないこと(三六ないし五〇重量%)、<2>加水分解工程でアルカリ性水溶液にグリセロールを含まないことにあり、その結果、湿潤固有引張強度の高いセルロースエステル中空繊維が得られると同時に最終的に得られる半透過性中空セルロース繊維が限外濾過係数、尿素係数においても非常に優れているという特質を達成しているのである。

これに対し、引用発明一は、<1>溶融紡糸工程において溶融紡糸組成物中のセルロースエステルの割合が多く(五五・六ないし八三.三重量%)、<2>加水分解工程でアルカリ性水溶液中にグリセロールのような多価アルコールが含まれている結果、引用発明一によって得られた中空糸の性質は、限外濾過係数において本願発明に比し著しく劣るのであり、このことは、本願発明の方法と引用発明一の方法とが実質的に異なることを意味しているというべきである。

以上のように、引用発明一におけるセルロースエステルの全体に対する割合は五五・六~八三・三重量%、好ましくは六二・五~七七・〇重量%であるから、セルロースエステルと多価アルコールの混合割合において、本願発明と引用発明一とは構成を異にするから、両発明を同一とした審決の認定判断は誤りである。

2  加水分解工程に関する対比の誤り(取消事由(2))

審決は、引用例一が「グリセリンのみを除外した多価アルコールを含むアルカリ性水溶液」による加水分解工程を開示しているから本願発明のグリセリン水溶液を使用している。そして、このグリセリン水溶液でセルロース中空繊維を処理し、次いで乾燥している。

しかし、引用発明一の加水分解工程で、グリセリン以外の多価アルコールを含有する場合もあるとの理由で、グリセリンを除いた多価アルコールを含む引用発明一の加水分解工程が本願発明の加水分解工程に包含されるとする審決の論理は引用例一の恣意的解釈であり、誤っている。

すなわち、引用例一の開示する発明の特徴は、グリセリンによって代表される分子量二〇〇以下の多価アルコールを加えたアルカリ性水溶液で加水分解することにある。引用発明一に係る明細書では、多価アルコールの例としてエチレングライコール等の二価アルコールやグリセリン等の三価アルコールが列挙されており、これらの多価アルコールの作用としてセルロースエステルに対する膨潤作用によって均一なアルカリの侵入を助長するので断面形状が均一円形となり、中空糸壁表面を平滑にすると説明されている(甲第三号証六〇頁左下欄四行ないし一八行)。そして、その実施例においてはいずれも多価アルコールとしてグリセリンが加えられており、実施例の結果を示した第1表、第2表には、加水分解時にグリセリン無添加の場合には添加時に比較して水透過度、強さ及び真円度がそれぞれ減少することが示されている。

これらの結果からすると、引用発明一では、加水分解時にグリセリンに代表される多価アルコールを積極的に加えることを開示しているものである。

これに対し、本願発明においては、加水分解工程において、グリセリンを含まないのであり、グリセリンを含まない構成によってむしろ限外濾過係数(水透過度)や湿潤固有引張強度の著しく高いセルロース中空繊維が得られるのである。

以上のように、本願発明の加水分解工程に関する構成要件の特徴は、「グリセロールを含まない」ことにあるのに対し、引用発明一はグリセリンに代表される多価アルコールを積極的に加えることを開示しており「グリセロールを含まない」ことの開示は存在しないのである。

審決は、本願発明と引用発明一の加水分解工程を比較するに当たり、本願発明が「グリセロールを含まない」と記載されていることから、グリセロール以外の多価アルコールを含むアルカリ性水溶液を用いた引用発明一と対比しようとするが、引用例一の開示内容として、「グリセリンのみを除外した多価アルコールを含むアルカリ性水溶液」による加水分解工程なるものを観念することは、引用例一がグリセリンの積極的な添加を開示しているという明らかな事実を無視する恣意的な解釈であり、本願発明と引用発明一の対比として適切ではない。

第三  請求の原因に対する認否及び反論

一  請求の原因に対する認否

請求の原因一ないし三は認めるが、同四は争う。

二  反論

1  取消事由(1)について

(一) 組成物中の各成分の使用割合は、特に断りがない限り、組成物全体に占める各成分の使用割合で表されるものである。特に、割合を百分率で表す場合、各成分の割合の合計が一〇〇%になって初めて意味を成すものであって、原告主張のように解した場合は、各成分の割合の合計は一二〇ないし一八〇%となり、極めて不自然である。ところで、「重量%」とは、一般に、含量の表し方の一つであり、ある物体の全質量中で目的の成分が占める質量を百分率で示したものであるから、引用例一において水溶性多価アルコールが二〇ないし八〇%という場合には、特に断りがない限り重量%を意味し、全質量における水溶性多価アルコールの占める割合を百分率で表したものである。

原告が主張するような意味を有する場合としては、例えば「ポリオールの使用量はセルロースエステル一〇〇重量部当り、二〇~八〇、最適範囲は三〇~六〇重量部である。」などと表現されるものである。引用例一においては、「セルローズエステルに対し」と記載されており、右記載は、単に添加の対象がセルロースエステルであることを示しているにすぎず、特別に解すべき理由はない。原告援用の「セルローズエステルとして三酢酸セルローズ又は二酢酸セルローズフレークスに分子量三〇〇以上の水溶性多価アルコールを二〇~八〇%添加してブレンダーで混合し、・・・」との記載は、例えば、「水溶性多価アルコールをセルローズエステルに三%添加する」という場合には、セルローズエステル組成物として水溶性多価アルコールを三%添加するという意味であるのと同様に、組成物全体に占める水溶性多価アルコールの組成割合を示していることは明らかである。

さらに、原告の主張が誤りであることは、以下の点からも明らかである。すなわち、引用発明一と同一出願人に係る昭和四九年一二月一六日出願の特願昭四九-一四三五一号の出願当初の明細書(乙第三号証)の特許請求の範囲には、引用例一におけると同様の「水溶性多価アルコールをセルロースアセテートに対し二〇~三八重量%混合し」と記載されていたが、出願人は、昭和五一年九月三〇日付けの手続補正書により右記載を「セルロースアセテートに対する水溶性多価アルコールの重量%とは、混合するセルロースアセテートと水溶性多価アルコールの総重量に対する水溶性多価アルコールの重量を百分率で表した値である」と補正している(乙第四号証)。そして、右補正は却下されることなく、その後出願公告され(乙第五号証)、特許されている。このことは、前記特許請求の範囲の記載の意味するところは、「混合するセルロースアセテートと水溶性多価アルコールの総重量に対する水溶性多価アルコールの重量を百分率で表した値」を意味していることは自明のことであり、それゆえ、前記の手続補正は出願当初の明細書の要旨を変更するものではないとして、却下されることなく出願公告され、特許されたものであることを物語っているのである。かかる経緯に照らしてみても、原告の主張が失当であることは明らかである。

(二) 引用例一の発行された昭和五〇年九月四日当時において、セルロースエステルを用いて半透過性中空繊維を製造するに当たり、紡糸しようとするセルロースエステルに水溶性多価アルコール等の可塑剤を混入することは普通に行われていたところであり、この場合における可塑剤の添加量は、紡糸原液の溶解性、可紡性及び中空繊維の選択透過性能等を考慮して調整されていたものである。そして、この当時、水溶性多価アルコール等をセルロースエステルの量よりも多量に混入してなる紡糸原液を使用して紡糸することは、既に知られていたところである(乙第六、七号証参照)から、引用発明一において可塑剤がセルロースエステルより多いからといって何ら不可解なことではない。したがって、引用発明一におけるセルロースエステルとポリオールの混合割合を原告主張のように解さなければならない理由はない。

2  取消事由(2)について

本願発明の「グリセロールを含まないアルカリ性水溶液で加水分解」との表現において「グリセロールを含まない」との限定を付した意義は、グリセロールを含んだアルカリ性水溶液で加水分解する場合のみを積極的に排除する表現である。このことは、本願発明では、この場合を排除することが特許請求の範囲に明確に記載されているにもかかわらず、グリセロール以外のものを含む場合を排除すべき積極的記載が明細書中にないことからも明らかである。すなわち、本願発明は、アルカリ性水溶液にグリセロールが含まれていなければよく、その他の物質が存在してもよい場合を排除していないものであるから、審決記載のとおり、グリセリンを含まなければその他のどのような化合物を含んでもよいことになる。

これに対し、引用発明一では、セルロースエステルの中空繊維をアルカリ性水溶液で加水分解するに際して用いる水溶性多価アルコール類がグリセロールを含め多数例示されており、加水分解するに際して、これらから任意に一種又は二種以上組み合わせて用いることは明らかであるから、引用発明一は、グリセロールを含まないが、その他の水溶性多価アルコール類を含むアルカリ性水溶液で加水分解する態様を当然包含するものである。

したがって、アルカリ性水溶液についても本願発明と引用発明一とに差異はないから、審決の「加水分解する工程で使用するアルカリ性水溶液も両者は同じもの」であるとした認定に誤りはない。

第四  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

一  請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがなく、審決の理由の要点における本願発明と引用発明一との対比のうち、セルロースエステルと多価アルコール(ポリオール)との混合割合及びセルロースエステル中空繊維を再生セルロース中空繊維とする加水分解工程におけるアルカリ性水溶液の使用の有無を除くその余の構成において両発明の構成が一致することは当事者間に争いがないから、本件訴訟の争点は、右の二点においても両発明の構成が一致するとした審決の認定の当否である。

二  本願発明の概要

いずれも成立に争いのない甲第二号証の一(本願発明に係る公開特許公報)並びに同号証の二(昭和六二年一一月二七日付け手続補正書)、同号証の三(昭和六三年一〇月五日付け手続補正書)及び同号証の四(平成元年四月五日付け手続補正書)によれば、以下の事実が認められる。

本願発明は、透析、浸透あるいは限外濾過、特に血液透析あるいは血液の濾過による血液の無毒化に有用な半透孔セルロース繊維の製造方法に関するものである。

かかる目的に使用する有孔セルロース繊維は、従来の製造法においては、水浸透性が小さいため尿素、クレアチン等の血液不純物の除去性能が不十分であったり、また、湿潤工程における加水分解時の湿潤強度が不十分であるため、製造工程において損傷し易いなどの問題点を有していた。さらに、可塑化ポリマー組成物から溶融紡糸により半透孔繊維を作ることに関しては、従来、可塑剤としてスルホランが一般に用いられており、ポリオールは可塑剤として単独に使用することは不適当であると考えられていた。

これに対し、本願発明においては、スルホランを含まない、ある低分子量のポリオールあるいはそれらの混合物だけを含むセルロースエステル溶融紡糸組成物が、セルロースエステルからセルロースへ転化する際、湿潤強度を保持するセルロース繊維に加水分解され、溶融紡糸される、という知見の発見により、前記のような従来技術の有していた各欠点を改良し、水浸透性を向上させるとともに、製造工程間において生成セルロースエステル繊維が十分な引張強度を得ることが可能となったものである。

三  取消事由(1)について

審決の理由の要点における引用例一に関する摘示事実は、セルロースエステルに対するポリオールの使用添加量の点を除き当事者間に争いがなく、右添加量につき、被告は、二〇~八〇重量%、最適範囲は三〇~六〇重量%であるとするのに対し、原告は、五五・六ないし八三・三重量%であると主張するので、以下、この点について検討する。

1  まず、引用例一に記載されたセルロースエステルとポリオールとの混合割合に関する記載についてみるに、成立に争いのない甲第三号証によれば、審決認定のセルロースエステルに対するポリオールの混合割合の前記二〇~八〇重量%、最適範囲は三〇~六〇重量%とする認定に対応する引用例一における記載は、<1>「これらの多価アルコールは、セルローズエステルに対しては、相溶性は低いが混合して溶融紡糸する場合の困難さはなく添加量はセルローズエステルに対し二〇~八〇%の範囲で紡糸温度二二〇~二六〇℃の範囲で容易に紡糸することが出来る。最適範囲は三〇~六〇%である。」(二頁左上欄下から一行ないし右上欄六行)であると認められ、また、同引用例中における右混合割合に関連する記載として、引用発明一の実施方法の説明に関し、<2>「セルローズエステルとして三酢酸セルローズ又は二酢酸セルローズフレークスに分子量三〇〇以上の水溶性多価アルコールを二〇~八〇%添加してブレンダーで混合し、乾燥後チップ化する。」(三頁左上欄下から三行ないし右上欄二行)、実施例に関し、<3>「三酢酸セルローズフレークスに対し、分子量四〇〇のポリエチレングライコールを五〇%添加し混合し、これを二五〇℃で溶融紡糸して中空糸を作つた。」(三頁右上欄下から五行ないし二行)及び<4>「三酢酸セルローズに対し分子量七〇〇のポリプロピレングライコールを五〇%添加して混合し、これを二六〇℃で溶融紡糸して中空糸を作つた。」(三頁左下欄下から六行ないし三行)との各記載が認められ、他にこれを左右する証拠はない。

右認定によると、被告が引用発明一のセルロースエステルとポリオールの混合割合は二〇~八〇重量%、最適範囲は三〇~六〇重量%であると認定した点に対応する引用例一の現実の記載は、「セルローズエステルに対し二〇~八〇%」であって、「重量%」ではなく、このことは前記<2>ないし<4>の記載においても同様である。なお、前記<2>の記載においては、「セルローズフレークスに・・・多価アルコールを二〇~八〇%添加」とあるが、引用発明一に関する前記の他の記載と別異に解する根拠はないから、右記載も「セルローズフレークスに対し・・・多価アルコールを二〇~八〇%添加」すると解するのが相当である。

もっとも、前掲甲第三号証によれば、引用例一には、比較例に関し、

「三酢酸セルローズに対し分子量二〇〇のポリエチレングライコールを五〇重量%添加し、二五〇℃で溶融紡糸し、・・・中空糸(・・・)を得た。」(三頁右下欄六行ないし一〇行)との記載が認められるところであるが、右記載が引用発明一の実施例に対する比較例としての記載であることからすると、右「重量%」は、引用発明一に関する前記の各記載と同様に「%」の意味に解するのが自然というべきである。

そこで、前記<1>の記載の有する意味を検討するに、右<1>の記載から「多価アルコール」と「セルローズエステル」の混合割合に関する部分を抽出してみると、「多価アルコール(の)・・・添加量はセルローズエステルに対し二〇~八〇%で(ある)」というものであるところ、前掲甲第三号証によれば、引用発明一において、多価アルコールの添加(混合)対象が「セルローズエステル」であることはその特許請求の範囲の記載自体から既に明らかなところであるから、これを踏まえて、右記載を語句の通常の意義に従って解釈するならば、「セルローズエステルに対し」は、前記記載中の「添加量は」とある記載部分と相まって、多価アルコールの添加量について「セルローズエステルを基準として」、すなわち、「セルローズエステル」の量を一〇〇とし、多価アルコールの量は、その二〇~八〇%であることを示しているものと解するのが自然な解釈であり、相当であるというべきである。

もっとも、成立に争いない乙第一号証(昭和三五年一二月三〇日共立出版株式会社発行、化学大辞典編集委員会編「化学大辞典4」)によれば、「重量百分率」とは、「含量の表わし方の一つ。ある物体の全質量中で目的の成分が占める質量を百分率で示す。」との記載が認められ、この記載からすると、格別の留保もなく「重量%」が使用された場合には右の意味に解すべきものであるところ、引用例一の前記比較例の記載を根拠に同<1>ないし<4>の記載も、右比較例の記載と同様に「重量%」を意味するものと解し得なくもないので、更にこの点を検討しておく。そこで、かかる観点から前記<1>の混合割合に関する記載を再度抽出してみると、「多価アルコール(の)・・・添加量はセルローズエステルに対し二〇~八〇重量%で(ある)」となるところ、右記載部分における主語が「多価アルコール(の)・・・添加量」であることは、右記載の構造自体から明らかなところであるから、この表現方法によれば、前記の場合においても、「セルローズエステルを基準として」、すなわち、「セルローズエステル」の量を一〇〇とし、多価アルコールの量は、その二〇~八〇%であることを表しているものと解することも十分可能というべきである。したがって、この解釈を採用した場合における「重量%」の意味は、混合物の単位が「セルローズエステル」に対し、重量を基準とした百分比により表されていることを示しているにすぎないものと解することとなる。

そうすると、いずれにしても、引用発明一に関し、多価アルコールの混合割合が全質量の二〇~八〇重量%であることを前提として、右混合割合の点において、引用発明一と本願発明が同一であるとする審決の認定は誤まりといわざるを得ず、この点に関する原告の主張は正当というべきであり、これによれば、「多価アルコールのセルローズエステルに対する添加使用量」は、原告主張の五五・六ないし八三・三重量%となるから、被告のこの点に関する主張は採用できない。

被告は、原告主張のような解釈を採った場合には、セルロースエステルと多価アルコールの合計量が一二〇ないし一八〇%と一〇〇%を超えることとなり不合理であると主張するが、原告主張に係る前記方法においても、両者の混合割合を確定することはもとより可能であり、これに何らの支障はないから、これをもって不合理であるとすることはできない。

2  被告は、引用発明一と同一出願人に係るほぼ同一時期の出願に係る発明の記載された乙第三号証を援用して、審決の多価アルコールとセルロースエステルの混合割合に関する認定に誤りはないと主張する。

成立に争いのない乙第三号証(特開昭五一-七〇三一六号公報)には、「セルロースアセテート中空糸の製造方法」に関する発明が記載されており、その出願は、引用発明一の出願より約一〇箇月後であり、その出願人は引用発明一に係る出願人と同一であること、右発明は、選択透過性薄膜として真円度、強度、透過性に優れたセルロースアセテート中空糸を得るための溶融紡糸法の提供を目的とするものであり、セルロースアセテートの可塑剤として分子量二〇〇以上の水溶性多価アルコールを用い、これをセルロースアセテートと所定割合で混合するものであること、右混合割合については、特許請求の範囲において、「水溶性多価アルコールをセルロースアセテートに対し二〇~三八重量%混合し]とあり(一頁左欄下から一三、一二行)、発明の詳細な説明中では、「水溶性多価アルコールをセルロースアセテートに対し二〇~三八重量%混合し」(二頁右上欄一行ないし三行)、「水溶性多価アルコールの混合量はセルロースアセテートに対し二〇~三八重量%とする必要がある。」(二頁左下欄五行ないし七行)等の各記載が用いられていることの各事実が認められ、他にこれを左右する証拠はなく、この事実によれば、右乙号証記載の発明は、引用発明一がセルロースエステルであるのに対し、右発明がセルロースアセテートである点の相違はあるものの、両発明は殆ど同一技術に関する発明であることが認められる。しかし、両者の発明における多価アルコールとの混合割合に関する表現方法をみるに、前記のとおり、引用例一においては「%」と明記されており、比較例中の「重量%」も「%」と解すべきであるから、これが「重量%」と明記されている乙第三号証と対比して論ずることは相当ではなく、この点において、被告の前記主張は失当というべきであるが、引用発明の右混合割合を「重量%」と解した場合を想定して、被告の前記主張を検討する。

いずれも成立に争いのない乙第四、五号証によれば、前記乙第三号証記載の発明の前記の混合割合に関する「セルロースアセテートに対する水溶性多価アルコールの重量%」の意味は、「混合するセルロースアセテートと水溶性多価アルコールの総重量に対する多価アルコールの重量を百分率で表した値である。」と、特許法一七条の二に基づく手続補正がされた後、右発明は出願公告されている事実が認められ、他にこれを左右する証拠はない。この事実によれば、引用例一の混合割合の記載を「重量%」と解すると、右記載も乙第三号証と同様に解するのが相当であるとみえなくもない。

しかしながら、前掲乙第三号証を精査すると、同号証には、可塑剤である多価アルコールの分子量、量等を適宜変更した実施例と比較例の結果を示した第1表が記載されており(四頁)、その「可塑剤混合量」の欄には「(重量%)」の記載が前記の補正前から存在することが認められるところである。そして、格別の留保もなく単に「重量%」と記載されている場合には、全質量中における目的成分の占める割合を意味するものであることは、前掲乙第一号証に記載のとおりであるから、格別の留保も認められない右乙第三号証において、前記の混合割合に関する記載の意味するところは、前記の手続補正において明確にされたように、「混合するセルロースアセテートと水溶性多価アルコールの総重量に対する多価アルコールの重量を百分率で表した値」を意味するものであることは明らかである。

さらに、前掲乙第三号証には、第1表の説明として「・・・混合量が三八%を超える場合、・・・中空糸に紡糸したときの真円性が悪く、又断糸、切断強度もやや低水準で望ましくない」(四頁左下欄二行ないし六行)との記載が認められ、この記載が前記第1表の可塑剤混合量四〇重量%を使用した実験No.6(比較例)を念頭に置いたことは右乙号証の記載から明白であり、また、第1表の説明として「・・・可塑剤混合量が二〇重量%未満の場合、・・・中空糸の切断強度が低く紡糸中の断糸率がt高い」(前同欄七行ないし一〇行)との記載が認められ、この記載が前記第1表の可塑剤混合量一五重量%を使用した実験No.5(比較例)を念頭に置いたことは右乙号証の記載から明白である。そして、かかる記載例からすると、特許請求の範囲における「・・・水溶性多価アルコールをセルロースアセテートに対し二〇~三八重量%混合し・・・」との記載の混合割合に関する記載を全体に占める割合を意味するものと解しないと、前記の比較例を排除している記載部分と整合しないのであり、この点からしても、前記の補正は、被告が主張するように、単に「重量%」との記載のみに基づいて許されたものと解するのは相当ではない。

そうすると、多価アルコールとセルロースエステルの混合割合の表示方法を異にする乙第三号証の記載をもって、引用例一の混合割合に関する審決の認定の根拠とすることはできず、被告のこの点に関する主張は採用できない。

3  被告は、引用例一の発行された当時、セルロースエステルを用いて半透過性中空繊維を製造するに当たり、セルロースエステルに水溶性多価アルコール等の可塑剤を混入することは普通に行われており、しかもこの当時、水溶性多価アルコール等をセルロースエステルよりも多量に混入して紡糸することは、既に知られていたところである(乙第六、七号証参照)から、引用発明一において可塑剤である多価アルコールがセルロースエステルより多いからといって何ら不可解なことではないとし、引用例一におけるセルロースエステルとポリオールの混合割合を原告主張のように解さなければならない理由はないと主張する。

成立に争いのない乙第六号証(特開昭四九-八二五八六号公報)によれば、同号証記載の発明は、昭和四七年一二月一五日出願に係る選択透過性中空繊維膜の製造方法に関する発明であり、選択透過性に優れたセルロースエステル系中空繊維の提供を目的とし、可塑剤を含有する紡糸原液の組成を一定の範囲内に定めて乾式紡糸する方法に係る発明であること、右発明においては、繊維中に含まれる可塑剤の含有量を五%以上六〇%以下と規定するものである(特許請求の範囲参照)ことが認められ、他にこれを左右する証拠はない。

これによれば、引用例一の発行前において、既に可塑剤の方が紡糸素材であるセルロースエステル等よりも多量である場合があることが開示されていたものであり、可塑剤の方が紡糸素材よりも多量であるとの観点においてみる限り、審決認定の混合割合自体を格別不合理とすることができないことは被告の指摘するとおりである。

しかしながら、かえって、右乙第六号証には、前記可塑剤の混合量に関し、「繊維中の可塑剤含有率は五~六〇%の範囲内に定められ、この範囲内であれば紡糸可能である。六〇%以上となると可紡性が低下するのみならず、紡糸された中空繊維は極めて柔軟になり、取扱いが困難となる。紡糸された中空繊維の取扱い易さ、加工性を考慮すれば可塑剤含有量は低い方がよいが、透過性能を考慮すれば一五~四五%が好ましい。」(三頁左下欄下から四行ないし右下欄四行)との記載が認められ、この記載によれば、可塑剤の全体量に占める割合の上限は六〇%であることが示されているのであるから、引用発明一における混合割合が審決認定のとおりであるとすると、その認定に係る可塑剤の上限値八〇%は、乙第六号証の前記記載からみると、余りにも可塑剤の量が多きに過ぎ、紡糸可能といえるかについて疑問なしとしないのである。

次に、成立に争いのない乙第七号証(特公昭四四-一四二一五)についてみると、同号証には、選択浸透性薄膜の製造方法に関する発明が記載されており、熱可塑性重合体と可塑剤の混合量は、<1>重合体に対する可塑剤の有効性、<2>押出成型に十分な低温度とするに必要な可塑剤量、<3>可塑化中空繊維に対する後続処理、特にこの場合は中空繊維の強度、<4>中空繊維膜中に要求される浸透特性との要因によって決定され、これらの要因によって可塑剤対重合体の許容し得る重量比の幅について種々記載され、その最大限のものとして、〇・一対一~四対一とするとの記載があることが認められるところであり、この記載によれば、可塑剤が全体の八〇%となる場合も含まれることとなるから、引用発明一についての審決の混合割合に関する認定に沿うかにみえなくもない。

しかしながら、同号証をみれば明らかなように、同号証記載の発明において用いられ得る重合体は、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートーポリエチレンイソフタレート共重合体、ポリオレフイン、エチルセルローズ、ニトロセルローズ、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリルビニルアセテート、塩化ビニリデンー塩化ビニル共重合体、ポリアミド、セルロースエステル等の極めて広範囲のものであり、可塑剤も右各物質に対応して多種多様な物質が使用されるもので、前記<1>ないし<4>、特に<1>によれば、重合体と可塑剤の組合せによっては、両者の混合割合は当然に異なるものと考えられる上、右の重合体と可塑剤の組合せの中には引用発明一と同様の組合せ自体がそもそも示されていないことからすると、前記のような性質を有する混合割合が記載されているからといって、この混合割合が直ちにセルロースエステルと多価アルコールからなる引用発明一においても同様に妥当するものであるとまで認めることは困難である。

したがって、この点に関する被告の主張も採用できない。

4  以上によれば、本願発明における多価アルコールとセルロースエステルの混合割合と引用発明一におけるそれが一致すると認めることはできないから、これを一致するとした審決の認定は誤っているといわざるを得ず、右誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく審決は違法として取消しを免れない。

四  よって、本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濱崎浩一 裁判官 田中信義)

<省略>

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